(読書まとめ)【ファイナンス思考】ファイナンス思考とは究極的には志の問題である
はじめまして、みやざわです。
これからしばらく、読書の感想・まとめ、その他日々の出来事、思う事を書いていきたいと思います。今回は読書の感想・まとめになります。
- 1.サマリ
- 2.はじめに
- 3. PL脳に侵された日本の会社とビジネスパーソン
- 4.ファイナンス思考なくして日本からアマゾンは生まれない
- 5.PL脳に侵された会社の症例と末路
- 6.なぜPL脳に侵されてしまうのか
- 7.おわりに
- 8.上記内容が難しかった方向けにお勧めの書籍
1.サマリ
今回は、マッキンゼー出身で、元ミクシィ代表取締役社長の朝倉祐介氏による「ファイナンス思考」。非常に読みやすい構成と文体で初歩的な財務会計、ファイナンスの知識があれば簡単に読みこなせます。
本書のメッセージを乱暴にまとめるとすると
「目先の誘惑に負けず、デカい志に忠実にあれ」という事だろうか。
もう少し、細かくいうと、
「目先の業績を飾るより、長期的なデカい志を立て、志を支える資金を適切なステークホルダーから調達し、調達した資金を志の実現に資するよう適切に投資し、志の実現の過程で生まれる成果を志に沿って適切に配分し、その志を実現する道のりを明確にステークホルダーに示し続けよ」
ということになるだろうか。
しかしながら、経営者を取り巻く環境は目先の業績を飾りたくなるようなプレッシャーに満ちており、目先の業績を飾るための方法も無数に存在する事が示される。
だがしかし、そのプレッシャーに負けた先に待っている顛末は東芝の粉飾決算であり、じわじわと競争優位性を蝕まれジリ貧に追い込まれていく世界である。
そのプレッシャーや誘惑に負けずに戦いきるために必要なのが「志」であると筆者は繰り返し訴えているように感じる。
以下、本文を私なりにまとめてみた。
(実際の書籍ではファイナンス思考を活用して成功している企業例を割いた章もあるが今回は割愛した。本書を読みこなすためには初歩的な財務・ファイナンスの知識が求められるため、本ブログの最下部にお勧め書籍も紹介しています)
2.はじめに
ファイナンス思考とは何か?
- 会社の企業価値を最大化するために、
A.事業に必要なお金を外部から最適なバランスと条件で調達し(外部からの資金調達)、
B.既存の事業・資産から最大限にお金を創出し(資金の創出)、
C.築いた資産(お金を含む)を事業構築のための式投資や株主・債権者への還元に最適に配分し(資産の最適配分)、
D.その経緯の合理性と意思をステークホルダーに説明する(ステークホルダー・コミュニケーション)
思考形態。より広く解釈すれば「会社の戦略の組み立て方」ともいえる。目先のお金の最大化ではなく「将来稼ぐと期待できるお金の総額を最大化しようとする発想」であり、「価値志向」「長期思考」「未来志向」である事が特徴である。
3. PL脳に侵された日本の会社とビジネスパーソン
PL脳とは何か?
そもそも会社の存在目的は何か?
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一方で、現代における上場企業の場合は資本市場で流通するという事情もあり、事業の継続的に運営する(ゴーイングコンサーン)を前提としている。会社は、当初のプロジェクト的な側面に加え、その存続、永続的な企業価値向上を図っていかなければならない存在となっているのである。
会社の価値はどのように測られるか?
米国のGAFAの共通点は何か?
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世界の時価総額ランキング上位を占めるグーグル(アルファベット)、アップル、フェイスブック、アマゾンのIT4社がGAFAと呼ばれる。4社の共通点は「短期的にはPLの数値にはネガティブな影響が出る意思決定をし、将来の成長に向けて果敢に大きな投資をしている」ことである。具体的には、短期的なPLの既存をいとわない市場の拡大や競争優位性の確保を重視し、極めて大規模な投資を行う
どのようにPL脳が成長を阻むのか?
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本質的に重要な事は事業価値を向上する事。しかし、キャッシュフロー計算書と異なり、PLの数字は「作る」事もできる。売上であれば、売上の計上タイミングを悪用し、年度末に多めの数量を発注させ、後から返品する事で売上を過大計上する事が可能。利益であれば、ソフトウェアの研究開発費のPL/BS計上基準の曖昧さを活用する事で人件費をPL計上から外す事が可能
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PL脳の行動パターンに陥る事で長期的な事業価値を阻害する可能性がある
③資本コストを無視する:
WACC(加重平均資本コスト)よりROIC(投下資本利益率)が低い事業は、高い金利で借金をして、低い利回りの金融商品に投資をしている状態のため実質的に事業価値の観点では赤字のため、ROICの改善、もしくは事業売却をしなければならないがそのまま事業を放置してしまう
④事業特有の時間間隔を勘案しない:
目先のPLの改善を優先する事で、事業成長に長期的に投資が必要な事業において十分な投資がなされない
⑤事業特有のリスクを勘案しない:
事業に期待する収益性の高さは、事業のリスクの高低によって測られるべきであるため、リスクの低い事業では負債(資本コストが低い)、リスクの高い事業ではエクイティ(資本コストが高い)で資金調達するべきだが、そうなっていない
4.ファイナンス思考なくして日本からアマゾンは生まれない
ファイナンス思考の特徴とは?
なぜ現代の経済環境にこそファイアナンス思考が必要なのか?
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下記のように、経済環境によりその特徴と、取るべき経営アプローチが変わってくるため
高度経済成長期=右肩上がりの成長/将来の予測可能性が高い
⇒市場の成長に合わせた計画経済的アプローチ
低成長時代=成熟社会で市場が縮小、将来が不確実 -
⇒新たな市場開拓と非連続な成長に向けた戦略
5.PL脳に侵された会社の症例と末路
売上至上主義の症例とは?
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売上を上げるためには、単価×販売数量を上げる必要がある。多くの数量を販売する場合は、単位当たり製造コストは下がるが、営業・マーケティングコストが増加。逆もしかり。売上の「質」を無視する事でどちらが本当に利益につながるかが見えなくなる。売上が上がるいからといって利益が出るわけではない
利益至上主義の症例とは?
- 長期的な事業価値向上が後回しにされ、営業利益のかさ上げが行われることになる
①長期的な利益に貢献するマーケティングコスト・研究開発費を削り、長期的な競争力を棄損する
②のれんが発生する企業買収を避け、将来の成長を見越した事業買収ができない(毎年のれんの償却でPLの営業利益が押し下げられるのを避ける)
③意思決定が会計基準に左右される(IFRS(国際会計基準)とJ-GAAP(日本会計基準)ではのれんの基準が異なり、IFRSのほうがのれん計上額が低くなり、買収のハードルが下がる) - 本来の事業価値向上の観点を無視した連結会社の連結外し、株式買い増し
子会社・関連会社株式の時価評価への洗い替え(連結外し)によって、取得原価から時価へ評価方法が変化され、PL上の営業外利益とすることができる。逆に、連結会社の株式を買い増す事ですでに保有している株式も時価評価される事で、PL上の営業外利益とすることができる
キャッシュフロー軽視の弊害とは?
- 黒字倒産の可能性が高まる
PL上は黒字であっても取引先へ支払うべき資金が無くなれば会社は倒産する。典型例は運転資本の増加による資金不足。製造業でいえば、原料仕入、加工、販売、代金回収の流れで事業が行われるが、注意すべき点はモノが動くタイミングと、お金が動くタイミングが異なるという事。販売量や売上が増える事は、原料仕入など売上の回収前に支払わなければならないお金が増えるという事。仕入代金の支払から、販売代金の回収までの期間を「キャッシュ・コンバージョン・サイクル」と呼び、短いほど手元資金の余裕ができ、新たな投資や仕入の余裕が増す。よって、下記をコントロールする必要があるが、これが軽視されると黒字倒産につながりうる
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子会社管理が甘くなる
PLだけを管理しグループ全体で最適な投資を行おうとする際に、グループ全体のキャッシュが想定より不足してしまっているケースがある
黒字事業にありがちなバリューの軽視の弊害とは?
- 複数の事業を扱う大企業では、各事業にどの程度注力すべきかが重要な経営課題。事業とは、投資した資金から回収できるリターンの規模感と確度、失敗した際のインパクトを想定し、意思決定するものである。
- また、思わぬ事態に遭遇したら、早々に方針転換する柔軟さを持つことも重要。シャープの液晶テレビ事業では過大投資の影響が出始めた段階で売却すべきであったが、投資回収完了前の事業売却ができず、結局リストラによる構造改革の対象に陥った
6.なぜPL脳に侵されてしまうのか
①高度経済成長期の成功体験
- 高度経済成長期には「ジャパンアズナンバーワン」と称され、企業経営の在り方に自信を深めていた。景気拡大の主要因が「団塊の世代」による人口増加と、消費拡大によるものであり、市場の拡大に合わせて目標を達成することが合理的な時代であった。
- 終身雇用と年功序列をベースとし、新入社員は低い賃金に耐え滅私奉公し、後から給料を取り戻す構造であった。
- しかし、マーケットの拡大が止まった瞬間、この構造は破たんするもので、数十年単位で見ると、日本株式のリターンは、他国に比して圧倒的に低い水準となった
②役員の高齢化
- 終身雇用、年功序列を基本とする日本的雇用慣行を採用する日本企業においては、経営者は内部昇進者であることが基本であった。しかしながら、求められる役割を考えると執行役員から取締役になることは本来的に「昇進」というより「ジョブチェンジ」に近い
- また、CEOの平均年齢は世界平均で53才に対し、日本は61才ととびぬけて高く、経営者としての在任期間が短い事を意味する。よって、自身の在任期間を大過なく全うする事に意識が向きやすい構造におかれる
③間接金融中心の金融システム
- 日本の企業文化の主な特徴である、終身雇用、年功序列、民間経済への官僚介入、株主の軽視は、戦時中に太平洋での総力戦のために導入された制度
- その最たるものが間接金融中心の金融システムであり「太平洋戦争の遂行」と「高度経済成長期の企業経営」は国家総動員体制という文脈で共通していた
- こうした経緯から、「銀行支配」と呼ばれる状況となり、こうリスク投資においても銀行による融資が可能な状況下に置かれていた
- デット調達とエクイティ調達の本質的な違いは、前者は債権者が金利からリターンを得るのに対し、後者は株主が会社の成長に伴う株価の上昇や配当からリターンを得る点
- 高度経済成長期の融資判断における重視点は売上や利益が伸びているかどうかであったためPL脳的コミュニケーションで事足り、現在でも銀行の融資契約では最終損益が何期連続で赤字・黒字かが判断基準
- 貸し手である銀行が、貸出先の安全性を重視して最終損益を中止するPL脳であるがために、借り手である企業もPL脳に染まりやすい状況である
④PLのわかりやすさ
- PLは他の財務諸表やファイナンス概念よりも理解しやすい
- 理解しやすいがために社内の管理会計にPLが用いられるケースも多い(特に事業が複雑化するとわかりやすさからより使われるようになる)
- しかしながら、PL上の費用削減などオペレーショナルな視点に施策が寄りやすくなるという弊害もある
- また、PLベースの管理手法が人事評価にまで埋め込まれている事が多い事も、PL脳を現場にまでより根深く浸透させる一因となっている
⑤企業情報の開示ルール
- 例えば、四半期ごとに上場企業が発表する決算単身ではPL数値が最初に記載されるため、必然的に経営者の頭の中でも、PL数値の最大化が意識されてしまう
- また適時開示ルールによりPL数値が当初の業績予想に対して大きく乖離する見込みが立った時点で、その旨を適時開示しなければならない事もPLを意識させる一因となっている
⑥メディアの影響
- 決算期を中心にビジネス誌では盛んに業績の上げ下げが報じられるものの、業績の変化が企業価値の向上にどのような意味合いをもつのかという観点からの解説は皆無である
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経営者も、自社の見られ方を意識するあまり四半期単位でもPLを意識せざるをえなくなる
7.おわりに
- 何らかの事をなすにあたりその成否を分ける要素は「理:心:運」でありその構成割合は「1:4:5」ではないかと思われる。運」は十分条件であり、「理」と「心」は必要条件であり、「理」と「心」を準備していないところに「運」は降りてこない。ファイナンス思考とは「理」に該当するものであり、外してはならない要素である
- 本田宗一郎は「理念なき行動は凶器であり、行動なき理念は無価値である」と述べており「理」「心」の関係性の正鵠を得た箴言である。正論だけでは現実が伴わない事は理解しつつも「現場感」や「リアリティ」の名のもと現状を肯定・追従していては進歩は望めない
- ファイナンスは知識や理論以上に、考え方が重要であり、言い換えればファイナンス思考とは「態度」や「思想」の問題であり、究極的には「志」の問題である
- 今、必要なのは、放っておけば衰退する既存産業や社会システムの受け皿となる「ノアの箱舟」をみずからの手で作ることであるように思われる
8.上記内容が難しかった方向けにお勧めの書籍
下記2冊を読んで、再度本書に挑めば余裕をもって本書を読みこなせると思われるので、ぜひ読んでみて頂きたい。
【増補改訂】 財務3表一体理解法 (朝日新書)
財務会計の基礎を損益計算書(PL)、貸借対照表(BS)、キャッシュフロー計算書の繋がりから丁寧に解説してくれている。この一冊で財務三表のつながりと概要は十分理解できる。
ざっくり分かるファイナンス~経営センスを磨くための財務~ (光文社新書)
タイトル通り、小難しいファイナンスを平易な言葉と事例で”ざっくり”解説してくれている。非常に読み易い。また、白黒の本だが、太字で強調されている箇所が絶妙。